ビジネスにおいて「役職は人を育てる」という言葉がありますが、本当でしょうか?
私だったら「本当です」と答えます。
だから役職をいただけることは、成長という観点において大チャンスなのです。
会社の組織だけでなく、部活やクラブ活動においても、部長やキャプテンを任されたことで、大きく成長できたというような経験をしたことがある人もいるでしょう。
部長やキャプテンということまでいかなくても、何かの役をもらうことで、それまでと認識が変わったという経験は誰でもあるかもしれません。
一方で、そのようなチャンスが来た時に、自ら立候補して掴み取ることができる人もいれば、そうでない人もいます。
だから、会社組織において幹部の大切なスキルは、部下の特性を見ながらタイミングよくチャンスを提供することなのです。
目次
- 見られる側
- 責任感
- 失われる主体性
- 一般論と事例
見られる側
「役職は人を育てる」という言葉が、その通りであるならば、なぜ人は育つのでしょうか?
様々な理由があるでしょうが、その1つとして「見られる側」になることが挙げられます。
例えば、なぜ女優さんは綺麗なのでしょうか?
大前提に「ご本人の努力」があるでしょう。
その大前提を踏まえた上で、他に何かあるとしたら・・・
その理由を考えた時に「見られる側」であるという理由も1つに挙げられるかと思います。
「見られる側」になると、幸か不幸か「評価される」という対象になります。
その評価によって、次のチャンスが巡ってくることもあるし、その反対もあるかもしれません。
今の時代は、専門家でなく一般の人でもSNSを通じて評価を不特定多数の人に発信することができます。
そんな全ての声に耳を傾ける必要はないと思いますが、間違いなく言えることは「見られる側」になっていない人には遭遇しない経験ができるということです。
その経験を未来に活かすことができると、人は成長していけるのです。
責任感
では、会社組織において「見られる側」になると、どうなるのでしょうか?
役職のなかった人が役職者になったら、どのような変化が生まれるのでしょうか?
「見られる側」になることで、本人が望まなくても、勝手に周囲の期待値が高まっていきます。
例えば
- 主任なんだから、このくらいやってよ~
- 課長なんだから、これくらいできて当然でしょ~
- これは、部長の仕事でしょ~
あなたも、こんな風に思ったことはありませんか?
つまり周囲の期待値が高まっていくと、求められる人物像が自分の意思とは関係なく作り上げられていくのです。
その人物像に近づくために、そして現実とのギャップを埋めるために努力をしていかなければいけない状況が出来上がってしまうのです。
これが責任感であり義務感であり、自分が思っていた限界値を高めるきっかけになってくれるのです。
だから「役職は人を育てる」のです。
失われる主体性
役職者になると、このような期待に応えようと努力することで、成長するチャンスが待っています。
一方で、残念ながら失ってしまうものもあります。
その1つが、主体性です。
もともと自ら高みを目指していたり、色々なことにチャレンジしたいと思っていたのに、役職をいただいた後にその勢いがなくなってしまうようなイメージです。
本来役職をいただいて、モチベーションがさらに上がると思っていたのに、目の前の役割をこなすことに注力するあまり、以前よりも受け身になってしまうようなイメージです。
せっかく「役職は人を育てる」という言葉を信じて、意気込んで役職を受け入れたのに、このような未来になってしまうと少し寂しいですね。
では上司としては、どうしたら良いのでしょうか?
一般論と事例
このような時の対処法は色々あると思いますが、1つの一般論と1つの事例をご紹介します。
初めて主任という役職をいただくことになったDくんは、その責任を果たせるかどうかについて悩んでいました。
悩んでもいましたし、不安にも思っていました。
このような状況を踏まえて、まずは一般論です。
上司としては、このような不安を、言葉で解決する方法があります。
これが、一般的な方法かと思います。
その方法が良いか悪いかは、相手やタイミングや状況によって変わりますので、一概に正解かどうかは分かりません。
しかしこのような時に、上司としてはコミュニケーション能力という観点でセオリーがあります。
それが、次の3つのステップを踏むことです。
①訊く(Ask)
どのようなことに不安を感じているのか、そして自分はこれからどうしたいと思っているかを問いかけることです。
②聞く(Hear)
相手が口に出してくれたことを、しっかりと聞くことです。
リラックスした表情を作りながらも、一語一句聞き逃さないことが大切です。
③聴く(Listen)
相手が話してくれた内容をもとに、さらに訊く(Ask)ことをしながら、相手が口に出した真意を確認していきます。
この3つのステップを踏むことで、言葉で解決する土壌ができていきます。
詳しくは、こちらをご覧ください。
あなたの・・・コミュニケーション能力の課題が分かる本4: ビジネスの必須スキル「傾聴力」を発揮する3つの「きく力」
この時に上司として最もやってはいけないことは、この3つのステップを踏まずに、あるべき論を語ることです。
このような手法をとると、多くの場合はうまくいきません。
なぜならば、相手もあるべき論は分かっていることが多いからです。
詳しくは、こちら「べき論で人は動かない」をご覧ください。
ここまでの一般論を踏まえ、上司として少し違うやり方でコミュニケーションを取った事例をご紹介します。
今回の事例では言葉ではなく資料を活用し、本人に考えてもらう方法を取りました。
ここで伝えたかったことは「やるべきこと」よりも「やりたいこと」に目を向けてほしいということでした。
この時の上司は、役職者として責任を果たせるか不安に思っているDくんには、言葉だけでは消化不良になると判断しました。
そこで2週間の期限を設けて、自分のためにあるシートを埋めてほしいと宿題を出しました。
ちなみにそのシートは、記入用とは別に書き方を説明した手順書もあり、それがこちらになります。
この内容は、一度書いて終わりではなく、その書いた内容をもとに、上司と部下で話し合い、自分自身のやりたいことを見える化していきます。
そうすることで「やるべきこと」に押しつぶされない自分を作り上げていきます。
コミュニケーションにおいて、このような資料を活用するメリットは、何よりも本人が考えるということです。
「やるべきこと」は他人が与えることができるかもしれませんが「やりたいこと」の答えは本人しか持っていません。
しかし、その「やりたいこと」に自分自身が気づいていない場合もあります。
たまに「やりたいことがない」という人もいますが「やりたくないことがある」ということは「やりたいことがある」ということなのです。
だからその「やりたいこと」に自ら気づくための方法の1つが、このシートなのです。
このように部下を持つ上司としては、口頭以外にも相手によって様々なコミュニケーションの引き出しを持っておくことが、大切なのです。
ちなみに、Dくんが書いたものは次のようなものでした。
間違いなく「やりたいこと」がありますよね!!
上司は部下の昇格を何かのきっかけにしないと、もったいないですね。